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『えるぃんぱーてぃ物語』

第一話「役者は揃った」

ここは黄金の国じゃぽん。
国民の勤勉な性格と異常ともいえる強運を併せ持ち今や世界を代表する経済大国となったこの島国にも、未だに開発されず廃れていった地域があった。
剥き出しのコンクリート、風に吹かれて舞う土煙、街灯さえ無い路地。その雰囲気からかまだ明るいはずの夕日がどこか妖しく光っているように見える。
そんな場所に似つかわしくない一人の少年の姿があった。

ゆきお「はぁっはぁっ…ここが兄さんのいる病院か…」

さすらいのキーボーディスト、ゆきおの目の前にはこの辺りでは珍しい大きな建物が建っていた。入口には『LiP総合病院』と書いてある。
明かりのついていない入口を入る。本来なら診察を待つ患者と医者や看護師で溢れ、忙しなく動いているはずの平日午後の病院だが、受付には人影さえ見受けられない。
無人の受付を抜け、奥に掲示された病院内地図を見る。

ゆきお「別館地下4階の特別隔離病棟か…遠いなー」

ゆきおが目指すのは兄のいる病室。見てきた地図に従い別館へと移り階段を下りてゆく。
今となっては廃墟となったこの病院に未だに住んでいるただ一人の人間、ゆきおの兄でもあるますくの病室のすぐそこまでやってきた。

ゆきお「えーっと、兄さんの部屋は…あったあった、ここだ。」

いくら兄とはいえ、長い間会っていなかったため、突然ドアを開けることは憚られた。ドアをノックすると懐かしい声が返ってきた。

ますく「ん。誰だよ。」
ゆきお「僕だよ兄さん。ゆきおだよ」
ますく「何だよゆきおかよ。何の用?」
ゆきお「兄さんがずっと欲しがってた『はるるん』を買ってきたよ!世界に一つしか無い御人形だから7カ月も並んで買ってきたんだよ!」
ますく「あ、はるるんか…。そういえば、リカちゃんに注いでた愛情がヒートアップしてゆきおに買ってくるように頼んだっけ。」
ゆきお「そうだよ、兄さんが欲しがってた音楽を聴かせると歌い出す御人形!」

ゆきおは熱が入ったのか声が大きくなった。

ますく「あぁ、それな、悪いけどはるるんはもう要らない。」
ゆきお「なんで?僕のキーボードと兄さんのピアノとはるるんの歌で世界を目指そうって兄さんが言ってたのに!」
ますく「オレには音楽より大切なものが見付かったんだ。だからもういい。」
ゆきお「もういいって…。取り敢えず中に入るよ?」

ゆきおはドアを開けて中に入ろうとしたが中から鍵がかかっていた。

ゆきお「ねぇ、ねぇ兄さん開けてよねえ。」
ますく「いやオレはある人しか入れないことにしてるんだ。この病院が閉院した5カ月前からずっとその人を待ってる。」
ゆきお「その人って誰…?」
ますく「知らない。名前も顔も、何も知らないけど待ってるんだ。悪いけどピアノ弾いてる場合じゃない。」
ゆきお「何も知らないのに待ってるなんておかしいよ!第一この病院はもう廃墟なのに」
ますく「何も知らないわけじゃない。その人が看護婦さんなのは分かってる。」
ゆきお「え?看護婦さんを待ってるの?」
ますく「この世には物凄い美人で世話好きな看護婦さんがいるんだって、その人は昔この病院で働いてて、この病院に強い思い入れがあるらしいからここで待ってればきっと会える。はず。」

ゆきおは唖然とした。自分の兄がここまでアホだとは思わなかった。
そのアホのために世界でたった一つの歌う魔法の人形を買ってきた自分も馬鹿みたいだった。
しかしゆきおは昔兄と弾いたピアノの音色が忘れられず、どうしてもまた兄と音楽をやりたかった。

ゆきお「5カ月も待ってて来ないなんてきっともう駄目なんだよ。大体ここはもう廃墟だから人なんて来ないよ。」
ますく「来るもん。」
ゆきお「来ないもん!また前みたいに一緒にピアノ弾こうよ。これからははるるんと3人でさあ!ほら、はるるんも何か言いなよ。僕のお兄さんが新しいご主人様なんだよ。」
はるるん「………。」
ゆきお「あ、音楽聴かせないと動かないんだった。」
ますく「…。お前もう帰れよ」
ゆきお「嫌だよ。兄さんとやる音楽にはるるんの歌を乗せてみたいんだよ!」

ゆきおの願いにも似た訴えにますくは黙り込む。

ますく「ゆきお、この病院が潰れてしまった理由。分かるか?」
ゆきお「…?」
ますく「オレが入院したばかりの頃、ゆきおも来たことあるようにここはちゃんと営業してただろ。」
ゆきお「うん。」
ますく「でもな、原因不明の病気にかかった患者が7カ月前に入院してきた。しかもそいつは凄いわがままでみんなを困らせてた。」
ゆきお「わがままってもしかして…」
ますく「でな、ついにみんながそいつのわがままに耐えられなくなって逃げ出しちゃったんだ。そいつ以外みんな。」
ゆきお「あ、やっぱりわがままな患者って兄さんだったんだ。っていうか兄さん原因不明の病なの?」

ゆきおは心配そうにドアの向こうの兄に訪ねた。

ますく「ああ。原因不明で治療方法も分からない。しかもこの特別なマスクを付けてないといけないんだ。」
ゆきお「どんな病気?」
ますく「マスクをしてないとな、」
ゆきお「してないと…?」
ますく「特別なマスクをしてないと嘘をついちゃう病気なんだ。」
ゆきお「………。」
はるるん「………。」
ゆきお「どうでもよくない?」

ゆきおはひとまず安心した。どうやら死ぬ心配はなさそうだ。重病でないと分かったら余計に兄を外に連れ出したくなった。

ゆきお「ねぇ兄さん。それって外に出ても大丈夫なんでしょ?じゃあまた昔みたいにピアノ弾こうよ!」
ますく「オレの話聞いてたか?オレは看護婦さんを待ってるんだ。」
ゆきお「そんなこと言わないでさぁ…」
ますく「うるせぇよ。」
ゆきお「あ、じゃあ僕とはるるんと一緒に音楽やりながら看護婦さんを探す旅をしようよ!それなら良いでしょ?」
ますく「………。」
ゆきお「やっぱりダメか…。」
ますく「………行く。」
ゆきお「え?」
ますく「行くよ。行く。ちょっと待ってろ。今はるるんが歌う曲作る。」

ゆきおは生まれて初めて兄がこんなにアホで良かったと心から神様に感謝した。

ますく「曲、出来たぞ。」
ゆきお「え、もう?どんだけ看護婦さん探しに行きたいの?」
ますく「うるさいな。取り敢えずはるるんに聴かせてみようぜ。ほんとに動き出すのかな?」
ゆきお「分かんない。噂だからなぁ。じゃあ曲流すよ?」

ますくとゆきおは試しに今ますくが作った曲を流してみた。

ますく「………。」
ゆきお「………。」
はるるん「………。」

ますくとゆきおは顔を見合わせ、音楽を止めようとしたその時、

はるるん「こんにちわご主人サマ。私はるるんです。音楽を聴かせてくれると歌って踊るの。可愛いでしょ。」
ますく「動いた。」
ゆきお「動いたね。」
はるるん「お二人のお話は聞いていました。カンゴフさんを探しに可愛いはるるんとご主人サマは旅をするのね?」
ますく「あー。喋り方うざいけど一応はそういうこと。じゃあ行こうか。」
ゆきお「うん。」
はるるん「はい。」

こうしてはるるん、ますく、ゆきおの3人はますくのめんどくさい病気の世話をしてくれる美人の看護婦さんを探しに行くたびに出た。



えるぃんぱーてぃ物語
第一話「役者は揃った」〜完〜


 

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